臨床座談 楽しく語ろうクリニカル&マテリアル 40 (ジーシー・サークル 130号 2009-8より)
ゲスト
山﨑長郎先生 Masao YAMAZAKI
1945年生まれ
東京都渋谷区開業「原宿デンタルオフィス」
ゲスト
原 兆英先生 Choei HARA
1942年生まれ
東京都港区「ジョイントセンター株式会社」代表取締役
司会
中川孝男先生 Takao NAKAGAWA
1958年生まれ
東京都港区開業「中川歯科クリニック」
ジーシー
高田光明 Mitsuaki TAKADA
1966年生まれ
株式会社ジーシー機械開発部部長
先生のセンスに直結する診療空間
中川 開業や改装するときには、自分なりに思いがありレイアウトを考えたりデザインのまねごとをするのですが、本当にうまくいかないですね。
山﨑 私も部分的にはデザインできますよ。椅子はここに、通路の壁にはこうしたいとか。でも、トータルではつながらないのでチグハグになってしまうのです。
私たちは専門職なので、どうしても興味がCTやマイクロスコープなどのツールに向ってしまいます。たしかな医療を提供するために素晴らしいツールは欠かせないけれど、患者さんにツールの素晴らしさを理解してもらうのは難しいです。患者さんが、このオフィスがいいなと思うのは先生の人柄とオフィスに入った時の雰囲気だから、そこでマイナスイメージを抱かれることになるとどうしようもない。入った時に感じがいいと思わせるセットアップは、これから本当に必要だと思います。
実は、私の初めてのオフィスは自分たちでデザインしました。原宿の表参道を見下ろせるビルでしたが、原さんに笑われてしまいました。あの診療室の良いところは表参道を見下ろせることなのに、どうして患者さんに見せてあげないのと。そこで、 3分でも 5分でもセットアップのときに患者さんに街の風景を見せてあげれば、無言のコンサルテーションができますよって。ハッとしました。私たちの英知を絞った設計だったのに、デザイン上では最低のものだったということですから。
図13 入口ホールより全体を見る。天井には、高さ 1mの大梁がある。その側面にスリットをつくり、光を配したことで天井高を想像させるデザインに。
図14 受付カウンターの後方は診療室。右のガラス戸の奥はコンサルルーム。
図15 左右の診療室からホールへ向かう空間。壁面には 3種類のタイルを使用し、四方に広がりを感じるようにデザインした。屋外のような開放感を感じる。
中川 原先生は、これまで数多くのデンタルクリニックのデザインを行われていますが、どのようにデザインされていくのですか。
原 先生方は最初から形や機能を造りがちですが、私たちは最初に患者さんに対する配慮を考えます。患者さんにとって視覚的な広がりとか、気持ちが落ち着くとか、空間を心理的に組み立てていきます。そういうことが先生のセンスに直結するのです。カタチにするのは最後です。もちろん、歯科医院としての機能は絶対条件です。
中川 歯科は床上げが必要だったり、ビルだと空間が限られていたりとか条件の悪いところも多いですよね。
原 逆に悪いところを生かしていきます。小さければ空間にスリットを造ったり、スポット光をひとつ入れるだけでも空間が広がります。人間の視覚的な錯覚を利用するのです。要するに心理的な部分もしっかり考えて造ります。
受診率を上げるためにもオフィスデザインはキーワード
山﨑 ところで、今、歯科が危機だといわれていますが、私はまだ危機ではないと思っています。危機だとしてもそんなに深刻にはなってないです。本当に大変になるのは 60歳前後の団塊世代が少なくなる 10年後くらいからだと思っています。最近の子供たちは虫歯は少ないし、さらに少子化がともなって今後は患者が少なくなりますから。お金もなくなる。その時のことを一番心配しないといけないですね。
中川 受診率を上げるしか、他に方法がないですね。
山﨑 そう。だから、アメリカのように 2〜 3ヶ月に 1度はメインテナンスに来てくれるようにしないといけない。そのためにもオフィスのデザインも考えて癒しの空間に誘うような、来て楽しい雰囲気を創って、そして患者さんの口腔内を守っていかなければならないと思います。
高田 そうですね。ユニットも機能にこだわるだけではなく、どんなシーンで使われて患者さんにどんなメリットを与えていくかを、トータルに考えないといけないですね。
原 よくメーカーさんがすごく機能的なものができたと自慢しますが、それは製品であって商品じゃない。ユーザーが本当に求めるものが加味されて初めて商品になるのです。この場合のユーザーは患者さんですが。
高田 単品でものを見ていると、どうしてもそこに行き着かないですね。
原 そうです。トータルで考えないと効果は出ない。
山﨑 そういう意味では「レフィーノ」は商品になりますね。空間からトータルで考えているし、コンセプトもいいから最高機種になるでしょう。だから、買い換えや新規で導入する医院には、ジーシーとしてもトータルアドバイスをしてあげることも大事ですね。
高田 はい。いっそう頑張ります。
患者さんがドクターや医院を選ぶ時代
中川 空間デザインって、やっぱり好き嫌いがあって皆さんいろいろ考えますね。以前、歯科医院らしくない空間ということで、歯科とは無縁の空間デザイナーに依頼する時期があったけれど、あまり上手く行かなかった。
原 それは歯科の本質が分かっていないからです。
ところで、いま中川先生が言われた好き嫌いって、誰が好き嫌いなのですか。
中川 歯科医師です。
原 それが間違いなのです。患者さん中心に考えないといけない。空間は先生の信頼を患者さんから得る場所ですから、先生の趣味で造っても本質ではありません。患者さんはクリニックに入った瞬間に医院のセンスや診療への信頼度を選択します。空間で人間の意識は変わるのです。
中川 そうですね。我々もレストランに入った瞬間に意識しますものね。
原 ですから、時代やニーズの変化をしっかり掴んで患者さんを誘わないとファンにはなりません。ことに最近は、「患者さんの美意識」がすごく変化しています。これを、しっかり考えておかないといけません。そして、
「患者さんがドクターや医院を選ぶ時代」なのです。インターネットで調べたり、人から聞いたり、安心できるクリニックやドクターを探しているのです。
山﨑 多くの歯科医院がホームページをしていればいいのです。そういうことがドクターや医院の信頼につながっていきます。
そして大事なことは、「治療というのは、医院の看板や入り口から始まっている」ということです。先生方はユニットに座ってから治療だと考えますが、違うのです。とくに初めての患者さんは、看板ひとつで治療のセンス・医術までイメージします。入り口でおもてなしの気持ちが感じられれば安心します。これからホスピタリティ重視の「心の時代」になりますから、メンタルな面がすごく大事です。
中川 患者さんと話していても、デザインに関する感性が随分変わってきましたね。とくに若い人、女性は敏感です。
原 ですから、「デザイン性の高い医療空間が増えている」のです。空間そのものに感性があれば、ここの先生の医術はたしかだろう、私たちのことを気遣ってくれる先生だろうと想像するのです。