「Quint DENTAL AD Chronicle2013」巻頭特集3
iFデザイン金賞・グッドデザイン賞金賞
株式会社モリタ「Soaric」ダブル金賞受賞記念対談 より
歯科製品にも、歯科医院にも、デザインの優先性が認められた
左/株式会社モリタ 代表取締役社長 森田 晴夫
右/ジョイントセンター株式会社 インテリアデザイナー/代表取締役 原 兆英
司会/クイッテッセンス出版株式会社 代表取締役社長 佐々木 一高
デザイン的に魅力のある製品づくりを!
佐々木 株式会社モリタさんは「Soaric」(ソアリック)で、2012年ドイツのiFデザイン金賞、続いて2012年日本のグッドデザイン金賞をと、ダブル受賞の快挙を成し遂げられました。歯科製品といえども技術だけではなく、デザインも重要な要素であると、日頃からいっておられる森田社長、インテリアデザイナーとして多くの実績を上げ、全国各地で歯科医院のデザインを展開されている原兆英先生も、インテリアプランニングアワード2012にて、大分県佐伯市のクリニックのデザインが優秀賞を、2012年第8回スペースデザインコンテストにて東京都大和市のクリニックのデザインがグランプリを受賞しました。このお二人に、デザインの重要性、デザインの価値などについて、お話していただこうと思います。
まず森田社長から、株式会社モリタとしては、どういうコンセプトで製品を開発しておられるのかを、お聞きしたいのですが...。
森田 もともとモリタの製品は、歯科診療全体の配置やデザインを非常に重要視していたはずなのですが、最近は開発者の技術屋魂が先行してしまって、「先生方が使われる道具としての機械は、機能と性能が優れていることが最優先で、いいものをつくれば、先生方から選ばれる」という思いが強すぎたようです。
しかし、機能的、性能的に素晴らしいものであっても、デザイン上の魅力がなければ、なかなか市場では認められないのではないかと、反省を含めて考えておりました。技術者にも「その性能・機能もいいけれど、やはりデザインというものが大事だ」ということを言い続けてきて、iFデザインの金賞をとった「Soaric」以降、デザインを重視して製品戦略を考えてきています。
先生方も手術や治療をきちんと行うことについては、機能の性能さえよければよかったと思われておられたようですが、最近は、患者さんが歯科医院に対して持つイメージ形成に、歯科医院の構成要素である機器類・設備のデザインが大きなウエイトを占めるようになってきており、私たちもデザインを二の次にした製品戦略では、遅れをとってしまうと考えております。
医院の空間はトータルデザインが命
佐々木 患者さんは歯科医院に行くことがストレスなわけですが、原先生は歯科医院を設計するにあたって、それを解消することを考えて設計されている...。
原 患者さんは医療を受ける前に「不安」を抱えています。歯科医院という空間に入った瞬間から、その空間で待っているときも、患者さんは精神的にはすでに治療が始まっていると考えています。空間というのは、人の気持ちや心理まで変えてしまうのです。ですから、私が歯科医院のデザインをするにあたっては、その空間をいかに居心地よく包み込むようなものにしていくか、という面からスタートします。
機能だけを追求するのではなく、視覚的な面をとくに重要視していますね。たとえば、ユニットならユニットを、極端な言い方ですが、「道具・物が置いてある」というとらえ方をしています。その物だけが主張しても、いいハーモニーにならないんです。
それを色彩などで、どういうふうにトータルに考えて、その先生が何を主張したいのか、何を患者さんに訴えたいのかを把握して、空気を作るわけです。
今回、モリタさんの「Soaric」が金賞をとたれたことは、私もすごくうれしく思っている一人です。見た目もきれいだし、最新の技術が「Soaric」には入っていると思います。今までは、ユニットだけがすごく主張していました。そのため、患者さんには単に治療する機械のように見えてきて、怖くなってしまっていたと思います。
「Soaric」はものすごくシンプルで、空間に対応してくれています。いろいろな先生に聞いてみても、「あれは使いやすい。今すごくヒットしている。」とおっしゃっいます。やはり空間をとらえるという点では、私たちも先生方も同じ意識なんですね。
佐々木 グッドデザインの製品は、先生にとっても、オフィスのデザインをするときにも、しやすいわけですか。
原 そうですね。それは物によりますが、グッドデザインを私も2回いただいており、その経験をもとに考えると、グッドデザインの製品は機能性を追求し、デザイン的にシンプルなものが多いです。ですから、空間デザインと調和してくれます。
「Soaric」の金賞W受賞で、デザイン重視の製品開発に
佐々木 森田社長は「Soaric」の開発について、何か特別な思いがあってつくられたのか、開発にあたって考えられたグッドデザインたるべき何かがあったんですか。
森田 「Soaric」は、ドイツのデザイナーとの出会いから始まっています。時として日本の技術者というのは、元のデザインをちょっといじってしまって変になってしまうところがあるのですが、「Soaric」については、技術者たちも、いかに元のデザインを生かして具現化するかを重要視して開発してきました。
今までなら「コストダウンのために、ここはちょっと妥協しましょう」などということがありましたが、「Soaric」はオリジナルのデザイン最優先、妥協なしに製品化しました。
これは、「デザインでは売れない、やはり機能・性能だ」という技術者の観点を、少し変えていくきっかけになったのではないかと思います。実際に、「Soaric」が多くの先生方に評価されるとなれば、次の製品以降も、デザインを大切に開発していこうと、技術者も思うはずですから...。iFデザイン金賞、グッドデザイン賞をもらえたことは、非常に励みになると思います。
来年、当社のチェア「スペースライン」の誕生50周年を迎えるのですが、その「スペースライン」を開発したDr.ビーチとの話の中では、常に「デザイン」が大きな要素ととらえられていました。インスツルメントが見えない患者さんに恐怖感を与えないとか、機械だけでなくてキャビネットとの機能的な関係、デザイン的な表現をし、プライバシーを確保しながらも、オープンなスペースにしています。
そういう診療環境全体のデザインを考えて、製品づくりや歯科医院づくりの提案をしてきていたはずなのですが、単独の機械ごとになってくると、技術の競争に終始してしまうところがあったように思います。
佐々木 モリタさんは、Dr.ビーチが登場した時から、ビーチシステム、ビーチの思想が浸透していって、デザインに重きをおくとか、シンプルな診療室をつくることに対しては、かなり取り組んでおられたと思うのですが...。
森田 デザインに意味があったんですね。デザインはトータルしたものでないと、本当の効果は出てきません。それで、キャビネットなど、トータルでつくったわけです。
原 デザインをトータルで考えることは必要だと思います。歯科医院のデザインも、とにかく「空間」をものすごく大事にしていますね。素人の人でも、家をつくるときに、インテリアとかじゃなくて、「トータルデザイン」とか「空間」という言葉を使いはじめたんです。今うちにきてくださる先生方は、デザインを任せてくれるのですが、これは完全に「いい空間をつくりたい」という思いの表れだと思います。
佐々木 原さんのところでは、有名な歯科医院のデザインを手がけられておられますが、たとえば、山崎先生が原宿から渋谷に移られて、原宿のデザインも素晴らしかったけれども、渋谷に移ったときのデザインも相当に考えられたと思います。やはりデザインが患者さんを誘引するという効果があると信じているから、それなりのお金をかけてやるとは思うんですね。
そうした先生のところ以外に、若い先生方の医院、あまりお金のかけられない医院もデザインされていると思いますが、デザインを変えれば、あるいは患者さんがワクワクするようなデザインにすれば、患者さんは増えていきますか。
iFデザイン金賞(2012年)、グッドデザイン金賞(2012年)をダブル受賞した、株式会社モリタの「Soaric」。
どんな条件下でも いい空間を表現するのがデザイナーの役割
原 それはいろいろあります。確かに著名な先生方の医院デザインを多くやらせていただいていますが、そんなにオーバーな予算をとってやっているわけじゃないんですよ。なぜそうした先生が私に仕事を依頼されるかというと、感性が合うからです。つまり、先生は技術に対してプライドを持っていて、その自分の神経が空間にも通じるから、それを表現したいんじゃないかと思っています。
私は若い先生であまりお金がないといっても、たとえローカルな場所であっても、デザインの重要性を理解している先生であれば、限られた予算を有効にし、材料をうまく使いながらつくっていきます。ですから、お金があるからいい空間をつくるのではなくて、先生がどういう意識を持って、患者さんに何を訴えたいのかを理解し、その空間を以下に表現していくかを考えます。
著名な先生方の医院デザインを多くやっていますから、若い先生が私のところにくると、「高いんじゃないか」などといって、敷居が高いものに感じておられるようです。でも、そんなことはないのです。
森田 歯科医院にブランクスペースがあるとすると、そこにどう配置するかというところから設計させるのですか。
原 全部です。建物からつくることもありますしね。
森田 配置というよりは骨格ですね。外には見えない、腕が変なところについていたり、脚が変なとことについていたら、使いにくいという元の骨格があって、それにどういう服を着せるか、どんな色にするか、和服にするか、洋服にするといったところが、デザインの要素になるんですか。
原 確かに今、森田社長がいわれたように、骨格がすごく大事ですね。デザインだけよくても、機能が悪いと先生方はすぐ批判します。ですから、使い方・機能をすごく大事にします。そのための打ち合わせ時間は長くて、今までの考えはどうだったのか、これからはどう考えているのか、しっかり聞き取ります。
その後はプランニング、骨格ですね。そのときに、先生方の考え・使い方・右利きなのか・左利きなのかまで含めてレイアウトしていきます。その際、これからの医療という空間は、どうしたらよいか、緊張感とか清家宇巻を保てるか・・・などを考え、それからデザインにしていくわけです。
中には「デザインのためには、先生によって多少レイアウトが悪くても...」といわざるを得ないときもあります。使いにくさなどについては、話し合って理解してもらうようにし、「先生、そこまで行くのにあと2、3歩しか違いませんから。そこにオブジェがあれば、そのオブジェが患者さんの緊張をやわらげる効果があるのですよ。ちょっと回ればいいんじゃないですか」ということで、プランが変わっていきます。人間はものすごく順応性があるのですぐ慣れます。とにかくきれいな空間、患者さんにとっても清潔で、ここちよい空間を定要することが大事なのです。
インテリアプランニングアワード2012にて優秀賞を受賞した、原氏デザインの大分県佐伯市のクリニック内装。