「Quint DENTAL AD Chronicle2013」巻頭特集3

iFデザイン金賞・グッドデザイン賞金賞
株式会社モリタ「Soaric」ダブル金賞受賞記念対談 より

歯科製品にも、歯科医院にも、デザインの優先性が認められた

 


左/株式会社モリタ 代表取締役社長 森田 晴夫
右/ジョイントセンター株式会社 インテリアデザイナー/代表取締役 原 兆英
司会/クイッテッセンス出版株式会社 代表取締役社長 佐々木 一高 

 

患者さんを案が得た デザイン・色彩が大事!

佐々木 モリタさんで製品を開発するときは、まず先生がこれを使いやすいといってくれるかと、先生のことが頭に浮かぶと思いますが、本当はその先に患者さんがいて、患者さんのためになるのが一番消費を拡大するのでは...。

森田 患者さんを考えたデザインというよりも、患者さんを考えたカラーには留意しています。色彩研究科の方にお願いしたりしますが..。

  色彩は大事ですね。「色彩は言葉を凌ぐ」といいます。色彩には、人の感情や体温まで変化させる力がありますから..。

森田 その点は、あまり一貫したポリシーがなかったかもしれないですね。色もそれぞれのモデルで、角ばったモデルならちょっとシャープな色で、丸いものならやわらかいパステル調の色でと、機械の開発者が考えたイメージで物をつくってきたような気がします。
ですから、全体との調和も考えて、インテリアの中にどう置かれるか、その場合に色はどんなものにと、置かれるところを想像してやっていく必要があるんでしょうね。
うちで患者さんのことを考えると、倒して起こしたときに背がずれないようにしようとか、どうもそういうメカニズムな話にいってしまうんですね。ショックが少ないとか、音をできるだけ小さくするとか、患者さんが恐怖感を持たないようにするための環境づくりは、十分に考えてきたつもりです。

  最近はビルのテナントで開業しようとすると、天井がとても低いところがあり、圧迫感や違和感があるので、その窮屈な部分を、逆にどう生かすかということを考えます。ある歯科医院の場合も、「天井が何でこんなに低いんだろう?」と思いましたが、ただ梁があるからやむを得ないんじゃなくて、逆にその悪い部分・気になる部分をどうデザインで、どう解決するかを検討しました。そういう空間の扱い方は、やはり違和感のないように、欠点をいい方向にしていかないとダメです。それは単なるひとつのテクニックですけどね。

 


2012年第8回スペースデザインコンテストにてグランプリを受賞した、原氏デザインの東京都東大和市のクリニック内装。

 

先生から見える風景
患者さんから見える風景

森田 診療室では、先生方が見ている風景と、患者さんが診ている風景は違うんですよ。機械の方にはあまり影響しないと思い明日が、インテリアの方には影響があるかもしれません。チェアに座ったら、患者さんに診えるのはライトくらいで他は機械、その機械があまり目立たないように、そこは気を付けなければならないでしょうか。

原  そうですね。医療器具も山田医療照明の「無影灯」とか、グッドデザイン賞をとって一生懸命研究していますね。物づくりは、技術屋さんもみなさん、どんどん「いい物を、きれいな物をつくろう」となります。それがひとつのハーモニーでまとまっていけば、素晴らしいものになると思います。もちろん機能は大事ですが、やはりデザインというものを本当に意識していかないといけません。一般の方々の美意識が非常に高くなっていますから...。

森田 今後は、その一般の人、私たちの場合は患者さんとなりますが、そこから情報を得ることも大切ですね。

  私も、歯科医院のホームページを専門に製作している人に、どこにポイントをおいているのかを聞いてみたら、第1は先生の考え方、第2はどんな診療所か、どんな雰囲気の空間なのかを確認するそうです。
つまり、インテリアに先生のセンスを結び付け、「その先生はきっと治療のほうもセンスがあるな」と想像して、来院の動機づけとしているようです。怖いのはそこで、先生の技術はわからないのですから、そういうセンスを持っているのかどうかで、とくに女性は瞬間に「あ、ここはダメだ」と感じ、判断されてしまうわけですね。
ですから、歯科医院はいかに空間やイメージが大事かということです。お金をかけることではなく、その先生がどういう意識を持つのか、先生の意識が変われば、患者さんも変わってきます。空間をトータルでとらえ、そこに「Soaric」が入ってくる、家具が入ってくる、このときに空間がまとまっていれば、トータルによく見えるでしょう。実際、私がデザインした医院では、「どんどん自費が増えてきた」という先生方の声を聞いていますから...。

森田 新規開業やリニューアルの際に、提案する私たちが、「モリタという会社だから、機械も開業を任せられる」と選ばれるように、もっと先生たちの上をいくくらいにセンスアップする必要がありますね。
最近、うちのショールームも、そういうふうに意識して変えてきています。昔は機械だけ並べていましたが、今は家具をゆったり置いたりして、先生が「こういう医院にしよう」とインスピレーションを持ちやすい、「どういう医院にしようかな?」と考えられるような空間づくりを非常に重視してやっています。

  日本人は、ゆったりした豪華な空間がいいと思いがちですが、小さい空間でも、工夫次第で、非常に落ち着いた違和感のないものになります。

佐々木 デザインの究極の目的として、「患者さんがどれだけ満足するか」ということもひとつ大きなポイントかと思います。ドクターの趣味だけに走ってもいけないし、デザイナーのひとりよがりになってもいけないし、やはり患者さんのニーズをしっかりリサーチする必要があるのでは...。

  患者さんのことを考えるのも確かに大事なことです。患者さんが「この医院はいいですね。落ち着きますよ。先生のお人柄がわかります」といわれるのは、デザイナーとしてうれしいことです。
ですから、先生が好きだからといって、先生の趣味で選んだものを使うのではなくて、患者さんがどうなのか、先生はどうなのかを確認して検討していかないと、いい空間にはなりません。患者さんと先生の両面が必要です。
しかし、私たちは最終的には先生のことを考えています。先生がそこで仕事をするわけですから、機能的で居心地がよくなければダメなんです。場合によっては、デザイン優先で慣れていただくこともありますが、基本は先生にとって居心地がよくなければいけないんです。
どんなにデザインがよくても、先生が嫌だと思うなら、これはうまくいかないと思います。
それは、治療にきた患者さんから「先生、ここすごく素敵ですね」といわれたとき、先生も気に入っていれば、「そうですか。ありがとうございます。私もこれが好きで...」とコミュニケーションができます。
私は、コミュニケーションがすごく必要だと思っていますから、「先生、ぜひコミュニケーションをとってくださいね。この空間は先生の空間なんですよ」とサゼッションします。

 

企業のトップがデザインに関心を持つ

佐々木 モリタさんが製品を開発するとき、いろいろな先生に意見を聞かれるのですか。

森田 先生方にはどんなニーズがあるのかをよく聞くようにしています。ただ、モリタの主張をはっきりさせて、会社のブランドイメージと商品が発するイメージを一緒にしていきたい、「モリタの製品」というものを前面に出して、デザイン的にも軸を持たないといけないと考えています。
金賞をいただいた「Soaric」は、デザインのマスターピース的なものとして、それに沿った流れの商品デザインを、今後いろいろな方向に展開してきたいと思っています。当社は、幅広い製品を持っていますから、統一性というか、トータルデザインが必要になってくるでしょうね。

 W金賞をとったことはうれしいことですが、それ以上に、歯科医療のトップメーカーである株式会社モリタの森田社長が、デザインの重要性を強く感じていることを評価したいですね。業界に与える影響は大きいと思います。他社がモリタさんのデンタルショーを見て、おそらくみんなショックを受けたはずです。やはり絶えずショックを与えるのが、一流ブランドの役割ですよ。

森田 原先生にそういっていただけると、心強いものがあります。
ドイツのデザイナーと私は非常に気が合うんです。彼の奥さんが日本人のせいか、漆工芸などの日本の工芸品の持つ「和の美」「日本人の良さ」をすごく評価しています。
ですから「外国のデザインをそのまま日本人につくれ」というのではなくて、「あなたたちは日本のメーカーだから、こういうデザインでいこう」と提案してきます。それがすごく感性が合うんですよ。

 日本人の持っている感性、思いやり、気づかいは、これから私たちデザイナーにますます求められています。そういう心を持ったものをつくっていくと、間違いなく受け入れられますね。

佐々木 日本の製品はインターナショナルになってきていますから、モリタさんのようなトップメーカーは、日本だけでじゃなくて、世界に向けて発信していただきたいものです。
原先生には、日本の医療空間が「こんなに素晴らしいものだ」ということを、世界に知らしめてほしいものです。本日はありがとうございました。

 

[対談後記]

数年前の記事ですが、より多くの皆様に読んでいただきたく「Quint DENTAL AD Chronicle 2013」の掲載記事をこのHPでご紹介しました。
この対談を通してデザインの重要性についての理解をお互いに深めることができ、これをきっかけに、世界各国のディーラーが製品について学ぶ施設、「モリタテクノサービスセンター」の内装デザインを担当させていただきました。ショールームではなく研修施設ということもあり、心地よい緊張感が生まれるような空間に、そして、この施設が世界各国のディーラーにとって、良きステップアップの場となり、モリタ社製品について確かな情報を、より多くのドクターに伝達していただけるようになることを願い、デザインしました。

ジョイントセンター株式会社 原 兆英

 


モリタ テクノサービスセンター ⇒ WORKS

 

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